【移転】150年前の蔵はアートスペースに。看板猫のいる浅草のカフェバー「ギャラリー・エフ」

※2021年12月30日、雷門2丁目の店舗は閉店しました。土蔵は東京都調布市の深大寺へ移築、ギャラリーエフは東京都台東区寿4丁目に移転が決まっているそうです。

記事末尾に、最終日に訪問した際の蔵のようすをおさめた動画を追記しました。よろしければご覧ください。

浅草線の浅草駅を降り、江戸通り方面の出口を出て右に少し進んだところに、そのお店はある。

江戸時代末期に建てられ、文化庁の登録有形文化財にも指定されている蔵を併設したカフェバー「ギャラリー・エフ」。蔵はアートスペースとして使われ、展示やイベントが日々催されている。

常連と言えるほど通いつめてはいなかったけれど、浅草の実家に住んでいたころは会社帰りや休日に度々利用していた。実家を離れてからも、帰省の折にたまに足を運んでいたけれど、そのうちある変化に気づいた。

ギャラリー・エフには、銀次親分という看板猫がいた。和柄の首輪にどっしりとしたたたずまい、キリっとしたまなざし。いつの間にか、彼の姿が店内から消えていたのだ。

どうやら亡くなってしまったらしいというのを知ったのは、随分後のことだった。

浅草の「ギャラリー・エフ」で、初代看板猫の銀次親分に思いを馳せる

画像:わたしちゃん
わたしちゃん

久しぶりに来たなぁ。昔はちょこちょこ利用していたのよね。

画像:みたら氏
みたら氏

そうなんだ。僕もたまに来てたんだよね……あっ、これは……!

画像:わたしちゃん
わたしちゃん

銀次親分の本が置いてある。亡くなったのよね、たしか……知ったのは随分後だったけど。みたら氏は銀次親分のこと知ってる?

画像:みたら氏
みたら氏

もちろん知ってるよ! ご挨拶程度でそんなにお話したことはないけど。いつもどっしり構えていて、得も言われぬ風格があってね。口数少なく背中で語る……みたいな感じが素敵だなぁって、憧れてた。

画像:わたしちゃん
わたしちゃん

素敵な猫さんだったわよね。銀さんはファンも多くて、遠くから会いに来ていたお客さんもいたし。銀さんが上の階から降りてくると、みんな笑顔になってた。いつごろ亡くなったんだろう……。

画像:みたら氏
みたら氏

2013年の年末だったかな。聞いたところによると、お店で急に倒れてそのまま亡くなられたんだって……。具合が悪そうな様子もなかったから、何があったんだろうね? って猫仲間の間でも一時期話題で。でも、原因は結局わからなかったみたい。

画像:わたしちゃん
わたしちゃん

知らなかった……その頃は、ちょうど浅草を離れていたときだったから。なんだか、お店のそこかしこに銀さんの気配を感じるわ。あの奥の席によく座ってたな、あそこで爪を研いでいたな、なんて。そうか、もう6年も前のことなのね。

浅草「ギャラリーエフ」2代目看板猫・錫之助(すずのすけ)と初対面!

画像:みたら氏
みたら氏

今は2代目の看板猫がいるんだよ。たしか「すずのすけ」さんって言ったかな。銀さんが亡くなられた半年後くらいに来たんだよ。

画像:わたしちゃん
わたしちゃん

噂で聞いたことがあるわ。でも不思議ね、2013年以降も何度か来たことはあったはずなのに、見かけたことはないのよね。

画像:みたら氏
みたら氏

さっきお店の人に聞いたら、「ずっとお店にいるわけじゃなくて、お客さんが会いたいって言ったときに下におろしているから」って言ってたよ。今上に呼びに行ってくれてる。

画像:わたしちゃん
わたしちゃん

あ、降りてきた!

画像:みたら氏
みたら氏

初めまして、この近くに住んでいるみたら氏と言います。すみません、わざわざ降りてきていただいて……お会いできて嬉しいです!

画像:わたしちゃん
わたしちゃん

錫之助さん、こんばんは! わーーー、お店の雰囲気と相まって、なんだか絵になるなぁ。
さっきからカメラを向けてるけど、全然動じない……というかむしろ、しっかりカメラに目線をくれるのよね。

画像:みたら氏
みたら氏

雑誌にもよく取り上げられている有名看板猫だからね、撮影慣れしてるんじゃないかな。さすがだね。

浅草「ギャラリー・エフ」の150年の歴史ある蔵はアートスペースとして利用

画像:わたしちゃん
わたしちゃん

150年の蔵、ですって。ええっと150年前ってことは、江戸と明治のちょうど狭間くらいかな。

画像:みたら氏
みたら氏

さっきもらったリーフレットに書いてあったんだけど、ギリギリ江戸時代のころに建てられたみたい。江戸から明治にかけて雷門のあたりには材木問屋が多かったんだって。この蔵は材木店の内蔵として建てられたんだよ。

画像:わたしちゃん
わたしちゃん

へぇ、そうなんだ! 修繕はもちろんしているんでしょうけど、150年も建物がもつってすごいわよね。

画像:みたら氏
みたら氏

江戸時代の堅牢な土蔵作りの技法を使っているみたい。関東大震災や東京大空襲もくぐり抜けて今もなお現役って、すごいことだよ。1996年に取り壊されそうになったみたいなんだけど、有志のアーティストさんたちがボランティアで改装工事をしてくれて、アートスペースとしてオープンしたんだって。

画像:わたしちゃん
わたしちゃん

あ、じゃあアートスペースが先で後からカフェができたのかな? メインはギャラリーなのね。店内にも絵が飾ってある。

展示作品
リチャード・バイヤーズ「Surroundings Taito +Sumida ward drawings」
http://richardbyers.tk/

画像:みたら氏
みたら氏

海外のアーティストの作品みたいだね。展示以外にもたしか、演奏会や落語もやってたよね。

画像:わたしちゃん
わたしちゃん

そうね。時代も国も超えて、色々な人がここに引き寄せられて、この空間を共有しているのね。

画像:みたら氏
みたら氏

さっきわたしちゃんが、お店のそこかしこに銀さんの気配が……って言っていたけど、銀さんだけじゃなくて、ここを訪れた1人ひとりの気配がこの空間を形作っているのかも、なんて思うんだ。銀さんは長くいたから、それだけ色濃く気配が残っているんだろうけど。

画像:わたしちゃん
わたしちゃん

なるほど……。

画像:みたら氏
みたら氏

僕はここに来ると、なんだかあたたかい気持ちになるんだ。ふぅ、と幸せなため息が思わず出てしまうような、そんな気持ちに。それはきっと、この空間を共有してきたあたたかい人たちの気配で満たされているからなんじゃないかな。

画像:わたしちゃん
わたしちゃん

そんな風に考えたことなかった。今日来た私たちの気配も、少しは残るのかな。

画像:みたら氏
みたら氏

残るよ、きっと。そして、明日来る誰かの気配も。願わくばずっと変わらず、あたたかい空間であってほしいね。

追記:2021/12/30 浅草「ギャラリー・エフ」最終日の蔵を見学(動画)

2021/12/30、雷門の店舗での営業最終日に、お店に伺いました。

前日に伺った際には満席で入れなかったのでこの日も不安でしたが、なんとか入れて食事をし、蔵で開催されていた展示を見学。

頻繁に通い詰めていたわけではないものの、浅草の実家に住んでいたころは度々利用させていただいていました。

蔵のようすを撮影したものを動画にまとめましたので、よろしければご覧ください。

浅草「ギャラリー・エフ」店舗情報

【公式サイト】ギャラリー・エフ
http://www.gallery-ef.com/

浅草出身のライター。「レトロ」を軸に執筆活動を展開。「和樂Web(小学館)」「びゅうたび(JR)」など各種メディアにて、明治〜昭和の喫茶店文化や食文化にまつわるコラム、レトロスポットの取材記事などを執筆。当Webマガジン「てくてくレトロ」主宰。