「埋もれたいなぁ」と思うことが、たまにある。
人前で話をするとか、初めましての人たちの集まりに加わるだとか。そういう、視線が自分に集まるようなシチュエーションを体験したあとは特に。
まわりの景色に、空間に、まるで空気のように馴染んで溶け込んで、ただただ漂うように、ぼんやりとしたい。
そんな気持ちの時、わたしは喫茶店に行く。
落ち着ける場所を探して、神保町をふらふらと歩いていたときに見つけたのは、地下にひっそりとあった、「カフェ・トロワバグ」だった。
神保町駅から徒歩1分。「カフェ・トロワバグ」
はぁ〜、今日はなんだか疲れちゃったわ……。
一体どうしたっていうのさ、わたしちゃん?
今日は、会議で発表しなきゃいけなかったの。発表自体は何事もなく終わったんだけど、人前で話すとか、注目されるのが苦手だから、ぐったりしちゃって……。
そうかぁ。猫の世界には「会議で発表」なんてシチュエーションはないから大変さがよくわからないけど、そういうときはコーヒーでも飲んでゆっくりしたほうがいいよ。
……あれ、もしかしてあれってカフェじゃない?
え……あの赤い屋根のところ?
そば屋さんとラーメン屋さんに挟まれているからうっかり見逃しそうになったけど、カフェみたいだね。ほら、看板がある。
店内の写真かしら、素敵なお店……。神保町駅から1分もかからない場所に、こんなお店があったなんて気づかなかったわ。入ってみる?
地下にあるお店みたいだ。落ち着いてのんびり過ごせそうだね。入ってみようか。
地下にひっそりとある、落ち着ける喫茶店【神保町 カフェ・トロワバグ】
ふむふむ……今スマホで調べてみたところによると、この喫茶店は1976(昭和51)年にオープンしたみたいだよ。
オープンから44年か。新しくてお洒落なカフェもいいけれど、歳月を重ねたお店ってそこにしかない独特の風合いが出るから、すごく惹かれるのよね。
丁寧に手入れしながら使い込んだ椅子やテーブルって、色あせや傷も味わいがあるよね。だから古くさい感じはしなくて、しっくりと心地いい感覚を覚えるんだ。
店内に入ってすぐ、赤いベロアのソファーが印象的だな、って思ったの。椅子の座面にも同じ生地が張られてる。
赤いベロアって、家のインテリアではまず選ばないじゃない。特別感があって、なんだか贅沢な気持ちになれるよね。
さて、そろそろ注文しましょうか。ここはやっぱり、コーヒーかしら。
そうだね! ちなみにここは、エイジングコーヒーを扱っているみたい。「エイジングコーヒー」は熟成豆/オールドビーンズとも言われていて、生豆を寝かせてから焙煎したものだよ。
トロワバグさんは、5〜10年ほどじっくりと寝かせた豆を、ネルドリップで淹れてくれるんだって。
じゃあ、「トロワブレンド」をいただこうかしら。みたら氏は?
僕も同じものにしようかな。
そうだ、前に行った六本木の「レイノ」も、熟成豆を使ったコーヒーが飲めるお店だったね。あそこも良かったなぁ。
「トロワブレンド」をひと口。コクのある苦味がじんわりと広がる【神保町 カフェ・トロワバグ】
おいしい! 苦味と酸味のバランスがよくて、しっかりとした味わいやコクを感じるわ。
少しとろみというか、なめらかな口当たりがするような気が……?
ネル(布)のフィルターは紙のものよりも目が粗いから、コーヒーの油分も一緒に抽出されているんだ。だから、ネルドリップでコーヒーを淹れると、とろっとまったりした味わいになるんだよ。
そうなんだ、知らなかったわ!
喫茶店でこうやってコーヒーを飲みながら実のない話をしたり、何もせずぼんやりしたりしていると、すごく心が癒されるのよね。
家で1人のんびりするのもいいんだけど、まわりにほどほどに人がいて、でも別に誰にも構われないで静かに過ごせる……っていうのが、すごくちょうどよくて。
わかるよ。店員さんの足音やカップを置く音、ほかのお客さんの話し声……ほどほどに人の気配がある中で、そこに溶け込むように馴染んで穏やかに過ごせるのって、いい時間だよね。
ここのお店は駅から近いけど地下にあるから、街の喧騒と距離を置けていいわね。気の置けない友達とまったりしたい時や、ひとりでぼんやりしたい時に、居心地よく過ごせそう。
ワインやおつまみメニューもあるみたいだから、夜にお酒を飲みに来るのもよさそうだね。
そうね。今度は、夜にまた来てみましょう。
【店舗情報】アクセス、禁煙/喫煙|神保町「カフェ・トロワバグ」
※神保町「カフェ・トロワバグ」は【全席禁煙】です。