打ち合わせからの帰り道。ビルの外に出たとき、ひんやりとした空気と薄暗い空に、少し戸惑った。
時計を見ると、夕方5時。夏の間はまだ明るい時間帯だけど、最近はもうこのくらいになると、日が落ちてしまう。
ひゅう、と冷たい風が吹き抜けていく。バッグからストールを取り出して体に巻きつけ、てくてくと歩き出す。
春から夏になる時とくらべて、夏から秋への変化はすごく急に感じる。その速さに、いつも戸惑う。なんだか置いていかれたような気がして、しみしみとさみしい気持ちになってしまうのだ。
……と、そんなことを考えていたら、ぐぅとお腹が鳴った。そういえば今日はお昼を食べそびれたから、おなかがペコペコ。
ふと遠くを見やると、黄色い文字が光る看板が目に入った。見覚えのある店名に導かれるように、ふらふらと近づいていった。
創業80年。淡路町の純喫茶「ショパン」
「ショパン」だわ。向かいの「かんだやぶそば」には来たことがあるけど、ここはそういえば入ったことがなかった。
僕も入ったことないな。わたしちゃん、お腹空いてるんでしょ? 何か食べてこうよ。
どうしようかな……そういえばみたら氏は何してたの? 用事があってこの辺りにいたって言ってたけど。
うん、さっきまで『丸善』にいたんだ。
丸善に? へぇ、檸檬でも置きに行ってたの?
僕が行った『丸善』は京都じゃなくて、御茶ノ水のほうだよ。
けっこう歩きまわったから、少し休みたいなぁと思ってたんだ。
ほんと? じゃあ、お茶していきましょうか。
淡路町「ショパン」で、あんこ×バターが絶品な「アンプレス」を
赤いベロアのシートが素敵な椅子ね。純喫茶の椅子やソファって、赤いものが多いわよね。昔のはやりだったのかしら。
そうかもね。「ショパン」さんは、1933年創業みたいだよ。創業80年以上……かなりの老舗だね。味わいがあって、素敵な雰囲気だなぁ。
ここ、あんこを挟んだトースト「アンプレス」が有名なのよね。一度食べてみたいと思ってたから、頼んでみようっと!
美味しそうだね! こんがりとプレスされたトーストに、つぶあんがみっしりと詰まってる。
いただきます!
……(モグ)……美味しい……! トーストにしみわたったバターの塩味と、つぶあんの優しい甘みが相性ぴったりね。
一口ほおばると、甘さと程よいしょっぱさが口の中でふわっと広がって、お互いを引き立てながら混ざり合っていく……たまらない美味しさだわ!
(ゴクリ)あの、わたしちゃん……空腹のところ本当に申し訳ないんだけど、一口もらってもいいかな……?
もちろん! 一口と言わず、一切れそのままどうぞ。
ありがとう!
……あぁ、美味しかった。なんだか心まで満たされたわ。
夏から秋になるときって、急に寒くなるし、日が落ちるのも早くなるじゃない。なんとなく、切なくなるのよね。
わかるよ。寒いとそれだけで、もの寂しい気持ちになるしね。そこに空腹が加わると、なおさらだよ。
わけもなく寂しい、切ない……なんてときには、美味しいものを食べてゆっくりするに限るね。
そうね! さて、そろそろ帰りましょうか。
【店舗情報】アクセス、禁煙/喫煙|淡路町「ショパン」
※淡路町「ショパン」は全席喫煙可です2020年4月より、【1階:全席禁煙・2階は電子タバコのみ】になったようです。