上野の純喫茶「古城」のレトロゴージャスな店内で、コーヒーと共に至福のひとときを

「よかったら広い席に座って。空いてるんだから、気にしなくていいのよ」

はじのほうの狭い席にこそっと座っていたら、お店のマダムにそう声をかけられた。

ゆったりとした4人がけの席に移動して、珈琲をすすりながら、店内をみわたす。

煙草をくゆらせながら、ひとり文庫本を読む男性。
互いの恋愛について語り合う、カップルではない男女。

地下に続く小さな入り口の先には、50年以上も前からたくさんの人が訪れ、今もなお愛されている、お城のような喫茶店があった。

上野の古き良き純喫茶「高級喫茶 古城」

上野駅から歩いて5分ほどの場所にある、「高級喫茶 古城」。

地下のお店で中のようすがわからないので、気になりつつも入るのをためらっていましたが、思い切って入ってみることに!

扉の奥には、シャンデリアとステンドグラスが輝いています。その下には、地下に続く階段が。入口からしてもう異世界感がすごい。

入口のドアの取っ手
地下に続く階段の横の壁にも模様が

ドアの取っ手や壁など、いたるところに細かい装飾がほどこされています。まだ入口なのに情報量が多すぎてなかなか地下に進めない! これは店内も期待できるな……と思いながら、階段を降りていきました。

上野 古城|シャンデリアにステンドグラス……優雅な雰囲気の中で珈琲をいただく至福のとき

階段を降りていくと、目の前にはまたステンドグラスが。
歩みを進めるにつれ古城の店内が徐々に見えてきましたが、チラ見できる範囲だけでも、「こりゃ只事じゃないぞ……!」とわかるくらいの豪華さ。

地下に降りて店内に入ってすぐの床。「KOJYO」と店名が入っているので、オリジナルでデザインしたのでしょう。
床が素敵な純喫茶を数々見てきましたが、こんなに気合の入った床は初めてお目にかかりました。

店内には、シャンデリアがいくつも。お店の中央にどーんと豪華なシャンデリアがある、というのならわかるんですが、天井のあちこちについているんです。すごすぎる!

店内奥には、ステンドグラスが壁一面にズドーン! とあります。ううう美しすぎる……。

店内には石がふんだんに使われています。ママさんに伺ったところ、「本物の大理石」とのこと! いったい内装においくらかかったんでしょうか……。
今、この時代に新しくお店を作ろうと思ったら、こんなに豪華なお店はなかなか作れないだろうな……。

頼んでいたコーヒーがやってきました。カップも素敵……。
昔からずっと、男性は青いカップ、女性は赤いカップで出すことになっているそうです。

上野 古城|50年以上もの長い間、たくさんの人に愛されてきた喫茶店

珈琲を飲んで少し経ったところで、「よかったら広い席に」とママさんに声をかけていただき、広々とした4人がけの席に移らせていただきました。

「高級喫茶」を謳っていることもあり少し敷居が高い印象でしたが、店内は素敵だしお店の方は気さくだし、すごく居心地がいい……。

メニューに挟んであった雑誌の切り抜きに書いてあった内容によると、古城を創業したのは、先ほど声をかけてくださった女性のお父様のよう。「孫の代まで持つように」と、シャンデリアも床もステンドグラスもすべて、納得いくまで作り込んだのだとか。

1963年の創業以来、50年以上もの間、この空間でたくさんの人が友達とお茶したり、デートしたり、いろいろな時間を過ごしたんだろうなと。これからもずっと、残り続けてほしいお店です。

お店を出るときに、「この間、ドラマの撮影もあったのよ。クリスマスに放送されるんですって。あ、でも若い人は、クリスマスに家でテレビなんて見ないかしら」と、ママさんが気さくに話しかけてくださいました。豪華絢爛な店内ですが、肩肘張らずにいられるこの雰囲気は、お店の方のお人柄ゆえかもしれません。

店内はどこを切り取っても美しい眺めで、きっとオーナーのお父様は、美意識が高くてセンスの良い、素敵な人だったに違いありません。
これからも長く続くであろう、このお店の歴史の中に、ほんの一瞬でも加わることができたことを、嬉しく感じました。

上野 古城 店舗情報

※全席喫煙可です

浅草出身のライター。「レトロ」を軸に執筆活動を展開。「和樂Web(小学館)」「びゅうたび(JR)」など各種メディアにて、明治〜昭和の喫茶店文化や食文化にまつわるコラム、レトロスポットの取材記事などを執筆。当Webマガジン「てくてくレトロ」主宰。