「よかったら広い席に座って。空いてるんだから、気にしなくていいのよ」
はじのほうの狭い席にこそっと座っていたら、お店のマダムにそう声をかけられた。
ゆったりとした4人がけの席に移動して、珈琲をすすりながら、店内をみわたす。
煙草をくゆらせながら、ひとり文庫本を読む男性。
互いの恋愛について語り合う、カップルではない男女。
地下に続く小さな入り口の先には、50年以上も前からたくさんの人が訪れ、今もなお愛されている、お城のような喫茶店があった。
上野の古き良き純喫茶「高級喫茶 古城」

ちょっと暗くなってきたわね。帰る前に、どこかでお茶しましょうか。

そしたら、行きたい喫茶店があるんだ。近くだから行こう。


ここだよ。「高級喫茶 古城」。

あ、ここ私も来てみたかったのよね。


お店はこの下。入口は小さいけど、店内はわりと広いみたいだよ。

ステンドグラスにシャンデリア……入口からして豪華ね。

見て、ドアの取っ手とか、階段の横の壁にも装飾があるよ。



ほんとだ! 細かいところまで凝ってるわね。店内を見るのも楽しみ……!
上野 古城|シャンデリアにステンドグラス……優雅な雰囲気の中で珈琲をいただく至福のとき



わーーー、素敵……!

見て、奥にステンドグラスもあるよ。


意外と広いわね、どこに座ろうか迷っちゃう。端のほうの、二人がけの席にしましょうか。

そうだね。


あそこの壁、本物の岩よね。ほんと、どこもかしこもこだわってる感じ。
今時の喫茶店にこの雰囲気は出せないわよね。素敵だなぁ。

あ、わたしちゃんの珈琲がきたみたいだよ。


ここで珈琲を頼むと、男性は青いカップ、女性は赤いカップで出てくるんだって。昔からずっと変わらないそうだよ。

へぇ〜、そうなんだ。
このカップ、すごく素敵。なんだか優雅な気持ちになれるわね。
上野 古城|50年以上もの長い間、たくさんの人に愛されてきた喫茶店
珈琲を飲んで少し経ったところで、「よかったら広い席に」とお店のマダムに声をかけていただき、広々とした4人がけの席に移らせていただきました。


店員さん優しいね。地下のお店だし「高級喫茶」って書いてあるから、ちょっと敷居が高いような印象だったけど、すごく居心地がいいな。

メニューに挟んであった雑誌の切り抜きに書いてあったんだけど、このお店をつくったのは、さっきの女のひとのお父さんなんだって。
孫の代まで持つように、って考えて、シャンデリアも床もステンドグラスもぜんぶ、納得いくまで作り込んだみたい。

そうなんだ。すごくセンスのいい人だったのね。

ほんと、素敵だよね。創業は1963年だから……50年以上も前なんだ。
この空間で、たくさんの人が友達とお茶したり、デートしたり、いろんな時間を過ごしたんだろうね。


「この間、ドラマの撮影もあったのよ。クリスマスに放送されるんですって。あ、でも若い人は、クリスマスに家でテレビなんて見ないかしら」
なんて気さくに話しかけてくださるマダムと、たまに言葉を交わしながら、ゆったりとした時間を過ごしました。
店内はどこを切り取っても美しい眺めで、きっとオーナーのお父様は、美意識が高くてセンスの良い、素敵な人だったに違いありません。
これからも長く続くであろう、このお店の歴史の中に、ほんの一瞬でも加わることができたことを、嬉しく感じました。

上野 古城 店舗情報

【みたら氏の一口メモ】
全席喫煙可です。
店内はそれなりの広さがあるとは言え、タバコを吸う人が近くにいる場合はすこしケムさは感じます。
タバコが苦手な方はご注意くださいね。