「そのうちまた行こう」が叶わなくなる日が来るなんて、思ってもみなかった。
小さいころから大好きだった、白と黒のケーキ。お母さんやおばあちゃんが、よくおやつに買ってきてくれた。
大人になって、浅草を離れて。実家に立ち寄ることはあっても、そのお店に行くことはなかった。
だって、いつでも行けると思っていたから。「そのうちまた行こう」と思って、ずっと行くことはなかった。
1946年(昭和21年)に創業し、たくさんの人に愛されてきた浅草の老舗純喫茶「アンヂェラス」が、2019年3月17日に閉店。
閉店の3日前にすべりこみで訪問し、最後の珈琲を飲んできた。
閉店3日前。浅草「アンヂェラス」を愛する人たちの大行列がぐるりとお店を取り囲む
アンヂェラスが閉店か……。知ったときは驚いたわ。小さいころによくここのケーキを食べてたの。ホワイトチョコレートがコーティングされてる白のほうが好きでね。「どっちにしようかな」って選ぶときにはいつも白を選んで食べるんだけど、結局黒も食べたくなって2本食べちゃってたな。
僕もアンヂェラスの白と黒のケーキは食べたことがあるよ。シンプルで上品なケーキで好きだったな。
それにしてもすごい行列ね。かなり売り切れも多いみたい。
ケーキもないね。残念! まぁ、これだけ混んでいたら仕方ないか。パフェとかはまだあるみたいだから、そっちを食べよう。
お昼過ぎから並んで、1時間半。あと数人のところまできたわね。そろそろ入れるかな……あれっ、お店の人が前の人に何か言ってる……あっっっっっ!!!!
ドリンク以外全部終了しちゃった……。
あとちょっと早く来れば間に合ったかも。うーん、残念だけど、お店の雰囲気が味わえたらいいか。
お店の人も、こんなにたくさん人が来るなんて予想できなかったかもね。行列、まだ続いてるもん。
馴染みの店がなくなるさみしさを、あと何度味わうのだろう
はぁ〜相変わらず素敵ね……うっとりしちゃう。
席は2階だって。
ケーキのショーケースも、お菓子が置いてあった棚もからっぽ……本当に閉店するんだなぁ。さみしい。
手塚治虫さんだね。作家の池波正太郎さんも通っていたんだよね、たしか。
そうそう。著名人にも愛された喫茶店、って有名だった。でもね、地元民からしたら「近所のケーキ屋さん」って感じなのよ。
並んでるときに、地元の人がテイクアウトでケーキを買おうとして、「もう売り切れてる」って残念がって帰っていく……っていうのが何回かあったじゃない? みんなここのケーキが馴染みの味なのよ。
なんかさ、昔通ってた小学校がなくなったりすると悲しいじゃない? それと似てるんだよね、感覚が。
建物の老朽化が理由だから仕方ないことではあるけど、残念だな。こんなに美しい喫茶店がなくなるのは。
本当に残念ね……。ところでみたら氏、「昔通ってた小学校」って、学校には通ってないでしょ。
言葉の綾だよ、「馴染みの場所」的なね。細かいことあんまりつっこまないでよ。ほら、注文したウインナーコーヒーが来たよ。
ここでウインナーコーヒー飲むの、初めてかも。1階でケーキだけ買って帰ることが多くて、店内でお茶することってあんまりなかったんだ。実は梅ダッチコーヒーも飲んだことがなくて。
そうなんだ。僕も梅酒がちょっと苦手で頼んだことがなくてね。新聞を広げて梅ダッチコーヒーを飲むおじさんを横目で見ながら、どんな味なんだろうな、って気になってた。飲んでおけばよかったなぁ。
今までずっとあったから、これからもずっとこの場所にあり続けるだろう……なんて根拠もなく思ってたけど、そんな訳ないよね。
始まりがあれば終わりもあるんだね。人も猫も、お店にも。
だからこそ、「そのうち」が叶わなくなる前に、会いたい人に会って、行きたい場所には行くべきなのかもしれない。
お店にお礼の気持ちを伝えたい……と思って、お会計のときに店員さんに話しかけようか少し迷ったけど、やめた。話しているうちに、残念な気持ちが滲み出てしまいそうな気がしたから。
きっと一番残念に思っているのは、お店の人たちだろう。だって、お客さん以上にこのお店と一緒に長い時間を過ごしてきたんだから。その人たちに「残念ですね」なんて言葉をかけるのは少し軽率な気がして、無言でお店を後にした。
長い間ありがとう。そして、お疲れ様でした。
浅草「アンヂェラス」店舗情報
閉店しているので情報をわざわざ貼るのも……とも思いましたが、お店の写真がたくさん見られるので、口コミサイトのリンクを貼っておきます。懐かしさにひたりたい方はぜひご覧ください。
アンヂェラス公式サイトはもうクローズしていましたので、URLは掲載しないでおきます。