目指すは「アートへの入口」。日本初の公立美術館「東京都美術館」(2021年「ゴッホ展」鑑賞レポート)

日本初の公立美術館として1926(大正15)年に開館した「東京都美術館」。

「アートへの入口」となることを目指す、という基本方針のもと、展覧会や公募展を開催しています。また、東京都美術館の建物そのものを紹介するツアーや参加型ワークショップ、観賞会など、アート関連のイベントを開催しているのも特徴です。

東京都美術館のなりたちや、先日鑑賞した「ゴッホ展──響きあう魂 ヘレーネとフィンセント」のようす、館内レストランもご紹介します。

開館は大正時代。日本初の公立美術館|東京都美術館

「東京都美術館」は、1926(大正15)年に上野公園内に開館した日本初の公立美術館です。当時の東京は「府」だったため、美術館の名称も「東京府美術館」でした。

大正の終わりごろの日本では、「ヨーロッパの都には美術館があり、文化のシンボルとして自国をアピールしている。美術館のひとつでもなければ西洋に後れをとる」といった世論が新聞各紙をにぎわせていたそう。そんな中開館したのが、「東京府美術館」でした。

都制施行により1943(昭和18)年に「東京都美術館」と名称変更

1975(昭和50)年、老朽化により美術館の建て替えを実施。
このころから、自主事業として企画展を開催するようになったそう。また美術文化事業、美術図書室の運営実施、作品の収集も行うようになりました。

1994(平成6)年に、野外彫刻等の立体作品12点を除くすべての収蔵作品と美術図書資料を、清澄白河の「東京都現代美術館」へ移管します。以降は、報道機関との協力による共催展と、美術団体等による公募展が活動の柱となっていきました。(2011年には移管した一部の作品が都美術館へ再移管されました)。

2012(平成24)年、リニューアルオープンを機に展示室の環境改善を行い、レストランやショップを充実させます。
(たしか地下のエントランス階へのエスカレーターが取り付けられたのは、このタイミングだったかと思います)

1975年の建て替え、2012年のリニューアルを経た現在の東京都美術館

現在は、「アートへの入口」という基本方針のもと、多様な自主企画の展覧会やアート・コミュニケーション等の事業を展開しています。
また、上野公園に隣接する日本屈指の芸術の殿堂「東京藝術大学」の卒業制作展のメイン会場でもあります。

レンガ造りのモダン建築。中庭には立体作品|東京都美術館

現在の東京都美術館の建物は、1975(昭和50)年に建て替えられた時のものです。建築を手掛けたのは、日本のモダニズム建築の巨匠・前川國男氏。

建物は、館内への入口が地下にある少し珍しいつくりになっています。なんでも、建物の60%が地下にあるのだとか。広い床面積を確保したいけれど高さ制限がある……という事情により、このようなつくりになったそうです。

井上武吉《my sky hole 85-2 光と影》1985年

この銀色の球体は、通り道にあるのですごく目立ちますよね。

東京都美術館の外観写真に写り込んでいることも多いので、「東京都美術館といえばこのオブジェ」というイメージがありますが、1階の屋外にはほかにも作品がいくつか設置されています。

五十嵐晴夫《メビウスの立方体》1978年

作品を眺めつつ、地下にある正面玄関へ。

玄関前の広場は日が入り明るい印象。建物の上に見えるガラス張りの部分は、レストランです。

地下一階には、チケット売り場やミュージアムショップがあります。
地下なのでやはり少し薄暗いですが、それがかえって建物のモダンな雰囲気を演出している印象を受けました。

「ゴッホ展」チケットは日時指定予約制、当日券もあり|東京都美術館

今回は、東京都美術館で開催されている「ゴッホ展──響きあう魂 ヘレーネとフィンセント」を目当てに訪れました(開催期間:2021年9月18日~12月12日)。

「ゴッホ展」では現在、混雑緩和のため日時指定予約制を取っていて、事前にネットから予約をする必要があります。

ただ人気の展示なので、直近の日程や土日祝日はほとんど埋まってしまっている状態。私が見た時にも、希望の日程の空きはありませんでした……。

「じゃあ見られないじゃん……」と諦めることなかれ! 窓口で当日券を販売しています。午前中に行ったところ、14時半の当日券をゲットすることができました!

当日券の販売状況は、ゴッホ展公式ツイッターで確認できます。
お昼過ぎには売り切れてしまうこともあるので、なるべく早めに行くのがおすすめです。

周辺は散策できるスポットもたくさんあるので、午前中に美術館に行って当日券を購入し、公園内を散歩したりお昼を食べたりすれば、あっという間に時間をつぶせます。

上野周辺の散策スポットを知りたい方は、こちらの記事もおすすめ!

館内レストラン「ミューズ」で上野精養軒の味を堪能|東京都美術館

チケットを購入したあと時間があったので昼食を取ろうと、東京都美術館内の「レストラン ミューズ」に行きました。

館内には計3つのレストラン/カフェがあります。

  • cafe Art(カフェ アート/中央棟1階):カフェ、軽食中心
  • RESTAURANT salon(レストラン サロン/交流棟1階):本格フレンチダイニング
  • RESTAURANT MUSE(レストラン ミューズ/中央棟2階):カジュアルな洋食

館内のレストラン/カフェはすべて、老舗レストラン「上野精養軒」の系列店です。

上野精養軒は、日本におけるフランス料理店の草分け的存在。1872(明治5)年に東京・築地に「築地静養軒」を創業したのち、1876(明治9)年に上野公園が開設されたと同時に、公園内の不忍池のそばに「上野静養軒」を構えました。

もともと築地店が本店でしたが、関東大震災で築地店が焼失してしまったのを機に、上野精養軒が本店になったそう。本店はその当時から現在に至るまで、同じ場所にあります。

今回いただいたのは、ハンバーグセット。コクのあるデミグラスソースがおいしかったです。さすが老舗の味!

窓際の席に案内していただけたので、緑を眺めながら食事ができました。この日はとくに天気がよかったので最高でした!

「ゴッホ展」を鑑賞|東京都美術館

館内のレストランで食事を済ませたあとは、いざゴッホ展へ!

展示会のタイトルは、「ゴッホ展──響きあう魂 ヘレーネとフィンセント」。これを見てまず思ったのは、「へレーネとフィンセント、とは?」ということ。

まずは「フィンセント」について。ゴッホのフルネームは、「フィンセント・ファン・ゴッホ」。フィンセントが名前で、ファン・ゴッホが姓なんだそう。ゴッホって苗字だったんですね、知らなかった……。

そして「へレーネ」。こちらは、世界最大のゴッホ作品個人収集家「ヘレーネ・クレラー=ミュラー」のこと。へレーネは、ゴッホががまだ評価の途上にあった1908年からおよそ20年間で、90点を超える油彩画と約180点の素描・版画を収集した方です。

ゴッホ展では、ヘレーネが初代館長を務めたクレラー=ミュラー美術館のコレクションから、ゴッホの油彩画28点と素描・版画20点を展示しています。
またミレー、ルノワール、スーラ、ルドン、モンドリアンらの作品20点もあわせて展示されていました。

作品は、ほぼ制作年順に並んでいます。
音声ガイドを借りて解説を聞きながら鑑賞したので、絵が描かれた時代背景とともにゴッホの絵のテイストの変遷が見られて面白かったです。

上記は、ゴッホがパリにやってきてから描いた「レストランの内部」という作品。新印象派の「点描技法」を取り入れて描かれた作品だそう。よく見ると点で絵が構成されています。

オランダからパリに移り新印象派の絵画に触れる中で、それまでの自分の描き方は時代遅れだったと感じ、新しい技法を取り入れてみたのだとか。

ゴッホ作品といえば、筆の跡が細長くシュッシュッとなっているもの(説明が難しい……)をイメージしがちですが、この画風が確立されるのはもうすこし後になってから。

「こんなふうに描いてみたらどうかな」「この色を使ってみようかな……」など、いろいろ試行錯誤しながら、自分なりの描き方を編み出していったのかもしれませんね。

一番印象に残った作品は、ゴッホ展のメインビジュアルにも使用されている「夜のプロヴァンスの田舎道」。

ゴッホが多く描いたモチーフ「糸杉」が、燃え盛る炎のように夜空に向かってぎゅーーーん! と伸びています。

ゴッホ展のポスターやチラシで何度も目にしてきた作品ではありますが、実物にはなんとも言えない迫力がありました。

美術館で作品を見た時に感じる不思議な迫力って何なんでしょうね。平面にプリントされたものじゃなく、絵の具の立体感が見えるから迫力を感じた……というのとも少し違っていて。

たとえば映像でななめの角度から撮影したら絵の具のモリっとした立体感を見ることはできるますが、たぶんそれでは、実物を見た時ほどの迫力や感動は感じられないんじゃないかと。

この感覚はどうにも言葉では表現できないので、ぜひ体感していただきたいですね!

東京都美術館では、時期によりいろいろな展覧会が開催されています。

また公式サイトで確認したところ、コロナで中止が続いていたアート関連のワークショップも、ここ最近は再開しつつあるよう。

上野に訪れた際にはぜひ、足を運んでみてくださいね。

【施設情報】東京都美術館

〒110-0007 東京都台東区上野公園8−36

浅草出身のライター。「レトロ」を軸に執筆活動を展開。「和樂Web(小学館)」「びゅうたび(JR)」など各種メディアにて、明治〜昭和の喫茶店文化や食文化にまつわるコラム、レトロスポットの取材記事などを執筆。当Webマガジン「てくてくレトロ」主宰。