昭和の日本家屋を再生。個性的なお店が集う下町のレトロな複合施設「上野桜木あたり」

最初にその名前を聞いたとき、「それ、正式名称なの?」と不思議に思った。
谷中霊園の近く、台東区の上野桜木というエリアにある複合施設、「上野桜木あたり」。

「あたり」という曖昧な名前には、あいまいだからこそ、どこまでもひろげていける可能性がある、という思いが込められているそう。
地域の人やお店の人、訪れる人、大人も子どももお年寄りも、みんなが一緒になって楽しみ、つながり、そして広げていく。

パン屋さん、オリーブオイルと塩の専門店、マダガスカル専門店に、シェアショップ……。
現代に再生した、昭和の日本家屋。その中に入っている、個性的なお店をめぐってきました。

昭和の日本家屋を再生した複合施設「上野桜木あたり」

1938(昭和13)年に建てられた3棟の日本家屋を再生してつくられた「上野桜木あたり」。

こちらは、元々の土地・家屋所有者である塚越商事株式会社と、NPOたいとう歴史都市研究会らによってつくられた複合施設です。

耐震診断や建物の調査、保存、修復などには、上野桜木あたりにほど近い場所にある東京藝術大学の美術学部建築科、および大学院の研究室(文化財を修復したり保存したり、の研究をしているところ)が携わったのだとか。

耐震などの問題により、古い建物が取り壊されることも多い昨今。地域のNPOや大学が一緒になって、古い建物を保存し、再生させようという取り組みはいいですよね。

「上野桜木あたり」には、パン屋やビール、雑貨屋などいろいろなお店が入っていて、それらのお店とレンタルスペースと住居が、路地や庭でつながっているつくりになっています。

小さな施設なので、ひととおりぐるっと巡るのにそう時間はかならないのですが、ひとつひとつのお店が個性的で面白い!
オリーブオイルと塩の専門店、マダガスカル専門店など、ほかにはないようなお店も入っています。

今回は、2つのお店をピックアップしてご紹介!

マダガスカル産チョコレート「ビオマダガ」|上野桜木あたり

まずは「ビオマダガ」。マダガスカル産のバニラビーンズやカカオ豆、チョコレート、雑貨などを販売しています。

最初、マダガスカル専門店とは??? となりました。どんな場所で、何が名産品なのかなど、まったく知識がなかったので……。

ふらりと入って眺めていたところ、店主の方が気さくに話しかけてくださいました。

なんでも、店主はマダガスカル専門のツアーオペレーターをやっているのだとか。長きにわたり築き上げた現地との関係と情報をもとに、現地の名産品を日本で販売しているそうです。

このチョコレートは、マダガスカル産の材料をつかい、現地のパティシエさんが作っています。パッケージの印刷も現地でおこなうことにこだわっていて、それを日本に輸入しているそう。

手の形にご注目

店内には、動物の写真がたくさん! 
『星の王子様』に登場するバオバブの木の写真もありました。

お話好きの店主と、かなり長い時間話こんでしまったのですが(笑)、中でも印象的だったお話をひとつご紹介。

行ったことがない人は、「マダガスカルは自然がいっぱいでいい」というイメージを持つけれど、その自然は人間の手によって失われ続けている。

以前、森が燃えているのを見かけたことがあって、何だろうと思ったら、人が火をつけているんですよ。何のためかって、燃料として使う木炭を作るため。
一度火をつけたら消す方法がないから、あたり一帯が燃え尽きて自然と消えるのを待つだけ。たまに村にも火が燃え広がってしまうこともあるらしい。

「数年前とくらべて、かなりの割合の森が失われている」とのこと。詳しい%は忘れてしまいましたが、たしか9割、と言っていたような……?(違ったらすいません、うろ覚えで) 多いな、とびっくりした印象があります。

行ったこともなく、どんな国なのかもまったく知らなかった、マダガスカルという場所。
店主からいろいろなお話を伺い、知らない世界にひとつ触れられた気がしました。

金継ぎ、古本、ハーブティー…シェアショップ「カタテマ」|上野桜木あたり

「カタテマ」は、複数人のオーナーさんの商品が並んでいる、シェアショップ。
古本や金継ぎをした食器、ハーブティーやアクセサリーなどいろいろなものが売っています。

このお店は、「片手間になにかできる時間があって、片手間にしたことが豊かで楽しいって、大事だよね」という、ある人の言葉から始まったそう。

複数人のオーナーさんが日替わりで店番をしているそうです。みなさん本業があって、そのかたわら、お店に立っている……という感じなんでしょうか。なんだかいいなぁ。

ねこ

お店の一角では、展示もやっていました。私が伺ったタイミングでやっていたのは、トランプの展示。
オーナーさんの親戚の方が趣味で集めたトランプを展示・販売していました。

個人が趣味で集めたにしては、かなりの量のコレクション。
「というか、せっかく集めたのに売っちゃっていいんですか?」と聞くと、「ね、いいんですかね? でも、売りたくない一軍のトランプは、手元に残してあるのかもしれませんね」と笑っていました。

お店を眺めている中で気になったのは、こちらのミャンマーのコーヒー。

女性の自立支援をしているコーヒー農園で作られているよう。
焙煎度合いを月の満ち欠けで示している、ドリップパックタイプのコーヒーを購入しました。

これ、すごくおいしかったです! 買ったときには「実際の月の満ち欠けにあわせて、ひと月かけて飲んでみようかな」と思っていましたが、おいしくて毎日飲んでしまったので5日でなくなりました。

ねこ

お店のラインナップも店員さんの雰囲気もすごーーーくよくて、上野桜木あたり、かなり気に入ってしまった……!
上野〜谷根千界隈はよくふらふらと散歩をするエリアなので、また行きたいと思います。

【店舗情報・アクセス】上野桜木あたり

※参考URL
http://arch.geidai.ac.jp/filter/Jul-2015/Works-8

浅草出身のライター。「レトロ」を軸に執筆活動を展開。「和樂Web(小学館)」「びゅうたび(JR)」など各種メディアにて、明治〜昭和の喫茶店文化や食文化にまつわるコラム、レトロスポットの取材記事などを執筆。当Webマガジン「てくてくレトロ」主宰。