上野の廃駅「旧博物館動物園駅」は、日暮里駅~上野公園駅(現・京成上野駅)の中間に位置する駅として、1933年12月に開業した駅です。
利用者数の減少から、1997年に営業を休止、2004年に廃止となりました。
駅舎の建物は現在も上野に残っていますが、普段は中を見ることはできず、ごくたまにイベントなどの時に開放される程度。
私も中を見たことはなかったのですが、東京藝術大学を舞台にしたTVアニメ『ブルーピリオド』と京成電鉄のコラボ展示(2021年12/4〜12/19)が旧博物館動物園駅の中で開催されることになり、中に入ることができました!
※本記事では主に、駅そのものの歴史や内部の様子をご紹介します。ブルーピリオドとのコラボ展の内容にはほぼ触れませんので、その点ご了承ください。
駅の歴史|上野「旧博物館動物園駅」
上野の廃駅「旧博物館動物園駅」は、日暮里駅~上野公園駅(現・京成上野駅)の中間にあった京成電鉄の駅です。
旧博物館動物園駅の立つ場所は、皇室で代々引き継がれてきた「世伝御料地」という特別な土地であり、駅舎の建設には御前会議での天皇陛下の勅許を得る必要がありました。
1932年3月、御前会議にて無事勅許を得られましたが、会議の中で「世伝御料地内に建設するため品位に欠けるものであってはならない」とのお達しがあったそう。そこで、「世伝御料地」の名に恥じないものにしようと、西洋風の荘厳な作りの駅舎が作られたそうです。
1933年12月に開業した旧博物館動物園駅は、帝室博物館(現東京国立博物館)や恩賜上野動物園の最寄駅として利用されるようになり、戦争や時代の荒波に揉まれながら営業してきました。
しかし、ホームが短く4両編成の列車しか停車できない事情もあり、利用者の減少によって1997年にやむなく営業を休止、2004年に廃止となりました。
廃止後も駅舎やホームなどは当時の姿を残していた旧博物館動物園駅。
2010年には、第二次世界大戦によって失われていた、照明の復元がなされました。
博物館動物園駅 照明復元事業この博物館動物園駅は、1933年(昭和8年)に竣工しました。6灯の壁付照明器具が、3方に開いた出入口を照らしていましたが、第2次世界大戦の金属供出により取外され、永く失われていました。
この駅舎と地下駅空間の保存と再生を願い20年間にわたる活動を続けてきた市民グループ、NPO法人<上野の社芸術フォーラム>による企画と募金活動により、2010年、漸く1灯の復元が成りました。
芸術の中枢機能が集積するこの交差点<アートクロス上野>に向けた光を復活させるものです。
2018年4月には特に景観上重要な歴史的価値をもつ建造物として、鉄道施設としては初めて「東京都選定歴史的建造物」に選定されました。
これをきっかけに、東京藝術大学と京成電鉄が連携・協力して駅舎のリニューアルを行い、2018年11月には期間限定のインスタレーション作品「アナウサギを追いかけて」の展示が行われました。
さて、前置きが長くなりましたが、ここからは2021年現在の旧博物館動物園駅の内部のようすを、写真とともにたっぷりご紹介します!
地上階・入口内部|上野「旧博物館動物園駅」
今年に入って上野に来る機会が増え、上野公園周辺を散策する中で「この建物何だろう……?」と気になっていたのですが、廃駅の駅舎だと知ったのは、つい最近のこと。
ヨーロッパの洋館のような荘厳なつくりである一方、サイズ的にはそこまで大きくないし、扉はずっとしまっているし、一体何なんだ?? と思っていました。
入り口の緑色の扉は、国際的に著名なアーティストであり、東京藝術大学美術学部長である日比野克彦氏がデザインしたもの。2018年に設置されたそうです。
実は「旧博物館動物園駅」が気になったきっかけのひとつが、この扉でした。緑というかターコイズというかティファニーブルーというか……絶妙な色味がすごく好みで、表面に描かれた柄も少し不思議な感じがして、目を惹かれていました。
そして、建物の古さと比べると扉が新しく見えるのも、不思議だったポイント。のちに2018年に設置されたと知り、腑に落ちました。
駅の入り口内部の天井はドーム型になっています。おそらく石造だと思うのですが、中央には植物をモチーフにしたような文様が彫られていて、そのまわりには絵画の額縁のような模様が彫られています。なんて細かい造り……!
地下へと続く階段には、ガラスの扉が。では、駅内部に入っていきましょう。
駅内部(階段・壁の落書き)|上野「旧博物館動物園駅」
「旧博物館動物園駅」の内部は、一度リニューアルされているとはいえ、廃駅になってからかなりの期間が経っているので、なんだかおどろおどろしい雰囲気……。
中にあるパネルは、東京藝術大学が舞台のTVアニメ「ブルーピリオド」のキャラクターです。
旧博物館動物園駅は、かつて藝大の展示(アナウサギを追いかけて)が行われた場所でもあるので、アニメにもゆかりのある場所としてコラボ展の会場に選ばれたのかもしれません。
壁面にあるのは、この駅に訪れた人が書いた落書き。名前やメッセージがびっしりと書かれています。(書かれているというより文字が彫られているようにも見えますが)
落書きには、名前や日付が書かれているものが多い印象でした。みなさん、動物園や博物館などに訪れた際の記念に、落書きを残していったのでしょうか。
マジックで書かれた、「桜さく夜 この駅が休業か…さみしいけどいつか絶対再開して下さい!」というメッセージから、この駅が人々に愛されていたことが伺えます。
壁にびっしり落書きがある、で思い出されるのは、大正時代に芸術家たちの溜まり場だった、銀座の「カフェープランタン」。常連客たちが絵や詩なんかを壁に書いていたのだとか。この落書きはたしか、モンパルナスの芸術家たちの溜まり場だったカフェーを真似してやったものだった、というのを何かで読んだ気がします。
神保町の純喫茶「さぼうる」の壁にもびっしり落書きがあります。ひとつひとつを見れば単に文字が書いてあるだけですが、これだけ壁一面に書かれていると、なんだかアートのようにも見えます。
さて、お次は階段下エリア〜ホーム階へ。
駅内部(階下エリア・ホーム階)|上野「旧博物館動物園駅」
「旧博物館動物園駅」の階下エリアには、ブルーピリオドの展示パネルとともに、過去に開催された展示のパネルと思われる掲示物が。
旧博物館動物園駅
設計図と建設中の写真について旧博物館動物園駅の設計図は、多くが描かれた昭和初期当時のもので、長年社内で使用されていたものです。
また駅建設中の写真は、平成25(2013)年の本社移転時に偶然発見されました。いずれも戦争や幾多の災害を乗り越えて、現在に残った貴重な資料です。旧博物館動物園駅は、平成30(2018)年、鉄道駅舎として初めて「東京都選定歴史的建造物」に選定されました。
なお、設計図や写真に記載されている「動物園前」は、路線認可申請中の駅名称で、昭和8(1933)年3月に「博物館動物園」に名称変更の届出がなされ、同年12月10日に開業しました。今回の展示では写真や設計図に記されたその当時の名称のとおりとしています。京成電鉄株式会社
「博物館動物園駅」と駅名が書かれたパネルの横にある駅周辺の地図には、パンダのイラストが。
上野は何かとパンダ絡みのものが多いですが、「上野といえばパンダ」というのは、今も昔も変わらなかったんですね。
階下フロアの壁にも、落書きはたくさん書かれていました。
「永遠にゾウやペンギンたちを見守ってあげて!!」と書かれていますが、こちらは動物園にいる動物のことではありません。
実は「旧博物館動物園駅」のホーム階の壁には、ゾウやペンギンの絵が描かれているんです。駅が正式に依頼したものなのか、落書きと同じように駅の利用者が描いたものなのか、詳細はわからないそう。
京成電鉄のキャラクター「京成パンダ」のツイッターにゾウとペンギンの写真が投稿されていました。
旧博物館動物園駅に遊びに行ってきた~
アナウサギさんも元気そうだったー!
ゾウさんもペンギンさんも!あ、パンダさんも元気よ~~#京成電鉄 #京成パンダ #旧博物館動物園駅 #アートイベント開催中 pic.twitter.com/EW59Pr8hfh
— 京成パンダ【公式】 (@keisei_official) November 5, 2019
↑トリミングされているので見えにくいですが、3枚目がゾウ、4枚目がペンギンの写真です。
ホーム階は立ち入り禁止になっているので、残念ながらゾウとペンギンの実物を見ることはできませんでしたが、ドアのガラス越しにホーム階をのぞいてみると、アナウサギが見えました。
2018年の展示時には真っ白だったアナウサギさん、3年間のうちにすすけてしまったようです。
暗くてわかりにくいかもしれませんが、頭を地面につっこんでいます。
展示をした際には上の階にいたアナウサギさんがなぜここにいるかというと、穴を掘り続けてホーム階までたどりついたという設定のようです。
……いや、設定とか言っちゃダメなのか。えっとですね、展示からの3年間でウサギが穴を掘って地下に辿り着いたようです、はい。
体勢的にはまだまだ掘り続けていくつもりのように見受けられるので、そのうちホーム階からもいなくなってしまうかもしれませんね……。
駅内部は動画でもご紹介!|上野「旧博物館動物園駅」
「旧博物館動物園駅」の内部の様子は、てくてくレトロYouTubeチャンネルにて動画でご紹介しています。
1分40秒ほどの短い動画です。縦動画なので、スマホでご覧ください。高評価やチャンネル登録も、よろしければぜひ。
駅開放は不定期|上野「旧博物館動物園駅」
コラボ展の受付の方に伺ったところ、旧博物館動物園駅は定期的に見学会などを実施しているわけではないよう。
今後も、イベントがあった際に開けられることがあるかないか、という程度みたいです。(受付の方は京成電鉄の職員さんではなかったため、詳細は不明ですが)
そして安全面の事情から、イベント等で使われる際にも今回同様、ホームには入れないケースが多いよう。
とはいえ、ネットで過去の記録をあさってみた感じだと、イベントによってはホーム階に入れることもあったようなんですよね……。いつかペンギンやゾウの絵を直に見てみたいものです。
今回中を見られたのは、本当に貴重な機会でした。偶然通りかかっただけだったので、扉が開いているのに気づかず通り過ぎないでよかったな、と……。
またイベントや展示などで開放される機会があれば、ぜひ伺いたいと思います!